新潟親子遭難事故の原因と問題点を改めてよく考える。(1.入山前の準備)
最終更新日 2019.9.25
先月GWに発生した新潟親子の遭難事件は、残念ながら最悪の結果となりました。
ぼくも子供を連れて登山をするものとして、身の引き締まる思いがしてますし、悲しさと悔しさでいっぱいです。
まずはこの場を借りて、ご冥福をお祈りいたします。
今回は親子ということもあり、大々的に報道があり、ネット上でもかなり話題が上がっていましたね。
最終的にコクラ沢という場所で遺体が見つかったことにより、道に迷った際に絶対にやってはいけないと言われている、「沢をくだった」ことが原因だという意見をたくさん目にしました。
迷ったら沢を下るな!尾根にでろ!をとことん掘り下げてみた。
もちろんそれが一つの判断ミスだったことは間違いないと思いますが、今回、親子が「遭難した原因」や「搜索が難航した要因」は、他にも多々ありそうです。
亡くなった親子の死を無駄にしないためにも、ぼくもこの記事を書きながら、改めてよく考えたいと思います。
各メディアの報道で公開されている情報をもとに、時系列で問題点や改善の余地を洗い直していきます。
もくじ
山行自体を誰にも知らせていなかった
周囲の人間がその日に親子が登山をしていたことを最初に知ったのは、祖父への第一報(道に迷ったからビバークするという連絡)でした。
つまり、誰にも山に行くことを伝えてなかった。奥さんにさえも。
これ、実はぼくの周囲でも結構よく聞く話です。
ぼくは山に行くときは、必ず妻に事前に伝えておきます。
少なくとも「どこの山に行くのか」と「下山予定時刻」だけは。
そして、下山後は必ず「無事に下山した」と連絡します。
そうすることにより、予定時刻から一定の時間が過ぎても、下山の連絡がなかった場合に、トラブルがあったと推測がしやすく、警察にぼくがどこの山で遭難したかを伝えることができるからです。
しかし、驚くことに配偶者に山に行くことを伝えてないという人や、山に行くことだけで行き先は伝えていない。という人は結構います。。
これ、大問題です。
仮に、今回道に迷って父親が第一報の連絡をしようと思ったときに、
もし携帯の電波が入っていなかったら…
もし携帯の充電が切れていたら…
どうなっていたでしょうか。
家族は夜遅くなっても親子が帰宅しないので警察に捜索願いを出します。しかし、その時点ではどこにいるのか全く分からない失踪事件です。
おそらく有力な手がかりが手に入らない限りは、五頭連峰で捜索を開始するに至るまでにかなり時間を要したはずです。
仮に登山届が提出されていなかったら、長期に渡り、山岳遭難の事実が判明しないままだった可能性もあります。
山に入る際は、最低でも行き先と下山予定時刻を家族ないし、身近な人に事前に知らせておかなければなりません。
装備が著しく粗末だった
登山口から2kmほど離れた店舗で、防犯カメラに映った親子の姿がネットでも出回っていますが、恐ろしく薄着です。
発見時の具体的な装備については公表されていないので、ここからはあくまでもこの格好のまま入山したという前提で話します。(山中での目撃情報によると親子は軽装だった。)
子供のシューズについて
子供は運動靴だったという目撃情報があり、トレッキングシューズなど山行に適したシューズを履いていなかったようです。
6歳なら靴のサイズは17cm~18cmぐらいになるので、大手アウトドアメーカーでも販売されているサイズです。
子供用のトレッキングシューズを所有していたかは定かではありませんが、子供の靴はすぐにサイズアウトしてしまうので、購入に二の足を踏んで先延ばしにしてしまいがちです。
しかし、子供は不注意による転倒などが多いため、足首を保護したり、ソールが滑りづらくなっているなど、山行に適したトレッキングシューズは大人より必須装備と考えられます。
ちなみに6歳の子供は20kgぐらいあるので、もし怪我をして動けなくなった場合は、父親がおぶって山でまともに行動することはできません。
残雪期の服装(装備)について
↓5/12に撮影された松平山の写真。
見たままですが、この時期の五頭連峰は明らかに残雪期です。
残雪期の積雪期のコンディションとは違いますが、踏み固まった雪が日中に溶けて夜に冷え固まり非常に滑りやすくなり、歩くコンディションとしては非常に悪いと言えます。
軽アイゼンかチェーンスパイクなどの滑り止めのギアがなければ、雪国で暮らす人でも転倒や滑落は防ぎきれません。服装などから推察すれば、おそらく持ち合わせていなかったでしょう。
また、死因は低体温症なので、親子には防寒装備や雨具がなかったと思われます。
残雪期は一見それほど寒くなさそうに思いますが、朝晩はまだまだ冷え込むから雪が残るわけです。
仮に朝晩の気温がそれほど低くなかったとしても、体を濡らしたことによって、体温を奪われたということも考えられます。
今回は日帰りの予定だったと思いますが、日中の休憩時を考えても、陽が当たらず、風が抜けるような場所であれば冷えます。
日帰りであってもダウンなど保温用のアウターが必要です。
ダウンなどは濡れてしまうと保温機能がなくなりますので、雨具と防寒というものは別物として考えなければいけません。(濡れても保温力を失わないインサレーションもあります)
ちなみに厳冬期や積雪期なら日中でも気温が低く雨ではなく雪が降るので、雨具はあまり必要なく、どちらかというと防風対策の方が重要です。
しかし、残雪期は防寒と雨具の両方が必要なため、初心者は装備に不備が出やすく、落とし穴の多い時期かもしれません。
ヘッドランプ
防寒が万全ではない親子がもしヘッドランプを持っていたら、冷え込むことが容易に想像できる環境でビバークを選択したでしょうか。
ヘッドランプは持っていかなったのでしょう。
ここ数年はSNSなどの影響もあってか、ご来光登山をする人が増えているようなので、ヘッドランプを常備している一般登山者も増えています。
しかし、日中しか山に入らない人たちだけとって見れば、非常用としてヘッドランプを携行している人は多くないのが現状です。
ちなみにヘッドランプがあるからと言って、日没を迎えても必ずしもそのまま下山できるわけではありません。
初めての登山道や、夜行になれてない人が無理に下山しようとすれば、深みにハマって自体を悪化させるだけになりまので、本来は早めにビバークして、朝を迎えてから行動するのがベストです。
しかし、夜間にビバーク地の周囲で用を足すことなどになれば、暗がりの中ではヘッドランプがなければそれだけでも大変ですし、用を足す際に滑落して命を落としたりするケースは多いです。
今回を例にしても、親子またはどちらかが夜間に滑落し、それが致命傷になった可能性も充分に考えられます。
雨具などと同様にヘッドランプは登山の必携装備です。
[二回も失敗した]ぼくが登山用ヘッドライトの選び方とオススメを語ります♪
登山届は記名のみだった
本人が登山口で提出したものは記名のみだったとのこと。
登山届は「私たちは登山します。」と宣言するものではありません。
登山届は別名を「登山計画書」と言い、最低でも、どの道を通ってどこへ行き、どの道を通って戻ってきます。という登山計画を、もしもの場合に備えて予め提出するものです。
今回のように計画の記載が一切なければ、遭難者がその登山口からどこに向かったのかすらわからず、
「ここに向かったであろう」
「ここを通過したであろう」
という推測の域でしか、捜索活動を行うことができません。
そうなれば、推測が正しくなかった場合は、正しかった場合に比べて、著しく捜索活動が難航するのは言うまでもありません。
逆に、細かい山行計画が記された登山届けなら、遭難者が意図的に大幅な予定変更などをしていなければ、それを基にした捜索活動ができます。
また、その山行計画の内容が細かければ細かいほど(経由地および予定時刻を細かく記載するなど)、捜索活動はスムーズかつ効率のよいものになり、早い段階で救助(発見)できる確率が上がります。
以前も書きましたが、登山届の提出率は10~30%と非常に低く、提出している人はそうでない人に比べて意識が高いと言えます。
しかし、今回の件をその提出事例の一つと考えた場合には、意識が高いと言えるレベルとは到底言えるものではなく、いかに登山届の意義が理解されていないかが浮き彫りになりました。
山行前の準備不足が最悪の結末を招くことに
ここまでで「山行の周知」「装備」「登山届」について書きましたが、これらは全て山行前の準備段階で行わなければならないことです。
そして、遭難しないために役立つことではなく、遭難してしまった場合に少しでも早く救助されることや、発見まで時間をそれなりに時間を要した場合に、少しでも長く生存しているための準備といえるものがほとんどです。
もちろん遭難しないことに越したことはありませんが、道迷いにしろ、滑落にしろ、絶対に起こらないということはありません。特に登山は自然を相手にするので尚更です。
今回のようにこれだけ大々的にニュースになるほど取り上げられると、「低山でも道迷いは発生しやすい。」「沢を下ってはいけない。」などと、なぜ遭難が起きたのか?ということが話題になりがちです。
しかし、それと同じように重要であるはずなのに、「なぜ救助が間に合わずに死に至ってしまったのか?」「事前の準備がもっとされていれば、最悪の結果は免れたのではないか?」そういったことが話題にあまり上がらないこと自体も、こういった悲しい事件が減らない要因の一つではないかと感じました。
「絶対」はありません。もしもの備えを事前に準備することが命を救います。
次回は入山後の行動について考えていきたいと思います。
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