野沢温泉村のトレラン遭難事故はなぜ起こってしまったのか?

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最終更新日 2019.10.2

先日7/14、長野県の野沢温泉村で開催されたトレイルランニングのレース「The 4100D マウンテントレイル in 野沢温泉」にて、さいたま市在住の会社員男性(62歳)がレース中に道迷いをし、遭難するという事故が発生しました。

同日から警察、消防による捜索活動が行われたましたが、発見に至らないまま7/17に捜索は打ち切りとなり、遭難した62歳の会社員男性は、今もなお行方がわからないままとなっています。

かなりの日数が経過しているので、夏とはいえ、残念ながら生存の可能性は低いと思われます。

トレランの大会で大きな事故といえば、秩父市で開催される「FTR100K」の2017年大会で、レース中に滑落して死亡するという事故がありましたが、国内のレースで道迷いによる大きな事故はこれまでになかったようです。(ネットで探した限りでは)

こちらの記事では、なぜこのような悲しい事故が起きてしまったのか、またどうしたら防ぐことができたのかなどを、一ランナーとして、一大会主催者として、ぼくなりに考えたことをまとめてみたいと思います。

トレイルラン初心者や未経験者の方は、参考にしていただければと思います。





もくじ




事故の概要

公式サイトやメディアで公開されている情報は以下の通り。

  • 制限時間18時間の65kmソロの部に出場
  • AM7時にスタート
  • 赤滝付近で道に迷った
  • PM2時頃に本人から「道に迷った」と大会本部に連絡
  • 本部からは「その場を離れないように」と伝達
  • その後に電話は繋がらず
  • 最後に目撃されたのはスタートから12キロの地点

ただ、この中ではっきりしないのが、「赤滝付近」で道に迷ったという場所の話。

本人がそう言ったのか、もしくは最後に目撃されたのが「12km地点」だから、そう推測したのか。いずれにしても「赤滝付近」でルートロストしたとは限らないはず。

しかし、15km地点には、「通過チェック」のある第1関門(長坂ゴンドラ山頂やまびこ駅)があって、今回はそこを通過していないということだと思いますので、12km〜15kmあたりでルートロストしているのは間違いなさそうです。

ルートロストとは
登山道や正規のルートなどを見失ってしまうこと。一般的にはルートから外れることを指して使うことが多いです。



歩き回った結果、コースから逸脱した可能性が高い

12km〜15kmというロスト地点から推測するに、どれだけ遅くてもスタートから3〜4時間以内、つまり「AM10時〜AM11時」には既にルートロストしていたと考えられます。

だとしたら、男性が本部に連絡したのは、ルートロストしてから3〜4時間経過しているので、その時点でロスト地点からかなり移動していることも考えられます。

3〜4時間の間にどのようなルートを辿ったのかはわかりませんが、直線距離なら10km前後移動しててもおかしくありません。

現在地が正確にわからない以上は、起点となるコースから外れれば外れるほど、捜索は難しくなるので、ルートロストしてから動き回ったことが、結果的に致命傷になったのかもしれません。

これはトレランに限りませんが、山で道に迷った場合は、戻ってルートに回帰するのが鉄則です。

トレランなら、コーステープなどの目印が数百メートルごとに設置されていることがほとんどなので、目印が出てこなくなった時点で、必ず目印のあるところや他のランナーがいるところまで戻らなければいけません。

ロスト地点から離れれば離れるほど、物理的にも精神的にも体力的にも回帰しづらくなるので、常に間違っていないかという意識を持ち、ロストした疑いがある場合には、早めに引き返す決断をすることが重要です。




なぜ、連絡がつかなくなってしまったのか?

これは大きく分けて、2つ可能性があると思います。

一つ目は、滑落などにより、「電波の入らないエリアで身動きがとれなくなった

二つ目は、単純に「充電が切れた

前者の場合はどうにもなりませんが、後者の場合は予備のバッテリーさえ持っていれば、確実に防ぐことができた事態ですし、充電が切れずにその後も連絡がついていれば、状況は全く違ったはずです。

ちなみに、レースではなるべくパッキングウェイト(ザックの重量)を軽くしたいので、予備のバッテリー(モバイルバッテリー)を持っている人はほとんどいないと思います。

しかし、不測の事態に陥った場合は、スマホが使えるか使えないかが明暗を分ける可能性は大きいので、特に長距離の場合は必ず装備に入れるようにした方が良さそうですね。

Ankerなどの大手メーカーにもかなり軽量なバッテリーがありました。この機会にどうぞ。

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正確な現在地を伝達できて入れば、発見されたはず

今回の事故で、ぼくが一番残念に思ったのは、本部と一度連絡が取れているにも関わらず、発見に至らなかったことです。

本部から「その場を離れないように」と伝達したとはいえ、どれだけ正確に現在地が伝えられていたのか(把握できていたのか)は定かではありません。

発見されなかったことにより、その場を離れてしまったのでは?と推測している方もいらっしゃるようですが、正確に現在地が伝えられていなければ、その場に留まっていたとしても、発見されない可能性は大いにあります。

逆に言えば、正確に現在地が伝えられていれば、おそらく発見されていたと思います。

そして、それを伝えられるチャンスがあったのに、逃してしまったことが残念でならないのです。

男性がスマホを使用していたかはわかりませんが、トレランのレースにエントリーするぐらいですから、おそらくスマホでしょう。

スマホであれば、簡単に正確な現在地を把握できます。

正確な現在地とは「GPS座標」のことです。

なお、GPSの精度はスマホの機種やフィールドによって変わるので、絶対ではありませんが、ここ2〜3年の機種などで、よっぽど深い山域の谷などでなければ、ぼくの経験上、誤差はあってもせいぜい十数メートルぐらいだと思います。

例えば、みなさんが山中で道に迷って、第三者に現在地を伝達しようとしたらどうするでしょうか?

おそらくほとんどの人は、マップアプリで地図を見て、現在地の特徴(どこから東にどのぐらいとか)を知らせるか、「遠くに◯◯が見える」とか、「近くに滝がある」とか、そんな説明になるのではないでしょうか。

GPS座標という発想がないのはもちろん、あってもその調べ方が分からないという方が多そうです。

本来は、YAMAP(ヤマップ)や、Geographica(ジオグラフィカ)などの登山用のGPSアプリを活用していれば、道迷い遭難自体がほとんど起こリませんが、登山をされてない方も多数いると思うので、今回は割愛します。




スマホのGoogleマップでGPS座標を取得する方法

誰でも簡単にできるので、知らなかった方は今試してみて、覚えておいてください。

1.Googleマップ(アプリ)を開き、地図上の現在地を長押ししてピン(赤いマーカー)を立てます。(画像左の中央がピン)

2.下に出てきた表示を上にスワイプ(引き上げる)します。

3.マーカーと同じ形のマークの横に、座標が表示されます。(画像右の赤枠)

4.座標をタップすると自動的にコピーされます

Googleマップで現在地(座標)の確認方法

この座標を電話口で伝えるか、一番確実なのは「メールで送る」だと思います。

もし、レース中に道迷いしても、それさえできれば、あとはその場を離れさえしなければ、まず発見してもらうことができるでしょう。




山に慣れていなかった可能性が高いのでは?

登山やトレッキングなど、山を歩いていると、一時的なルートロストは普通に起こります。

あ、さっきの分岐はこっちじゃなかったかな?とりあえず戻るか。

みたいな感じです。特に低山や樹林帯などでは、注意していてもまず避けられません。

初心者のうちは、ルートロストしたことに気づかなかったり、こっちからでも行けるだろうと戻らずに進んだりして、深みにハマることがあって、痛い思いをしたことがある人も多いと思います。

しかし、そうした経験をしていくうちに、ルートロストをしづらくなったり、しても感覚的に気付きやすくなっていきます。

そういったことから、それなりに山に慣れている人なら、トレランのコース上で道を間違えることがあっても、そのまま道に迷うということは考えづらいです。

つまり、今回の男性は山に慣れていなかったのではないかと。。

トレランをする人は、大きく分けて2つタイプがいる言われます。

一つ目は、もともとマラソンなどロードのレース経験があって、トレイルというフィールドに興味を持ってトレランを始めた人。

二つ目は、もともと山が好きで、山登りなどをしていて、山でのレースに興味を持ってトレランを始めた人。

もちろんぼくは、どちらのタイプの方にも大いにトレランを楽しんで欲しいです。

しかし、前者の方の場合は、レースに参加するなら、必ずある程度、色々な山に行ってみて、スマホのGPSアプリを試してみたり、そういった経験を事前にするべきだと思います。




運営側が事故を防ぐことはできなかったのか..

もともとぼくは、今回の事故を知るまで、この大会の存在自体を知りませんでしたので、この記事を書くにあたり大会のことを調べていく中で、気になったことがいくつかあったので、ピックアップしておきたいと思います。




本人からの連絡の前にできた対応はなかったのか?

公式サイトの報告では、午後2時頃に「道に迷った」と連絡を受けた。というのが事の始まりのようになっています。

しかし、第1関門(AM11時)の「長坂ゴンドラ山頂やまびこ駅」では、通過チェックが行われているので、スイーパー(最後尾で伴走する係)が到着した時点で、「一人行方不明者が発生した」という事実を認識していたはずです。

スイーパーが第1関門に到着した時間はわかりませんが、最初の関門なので1時間遅れの正午には到着していたと仮定すると、本人から連絡があったとされる14時より、2時間早い時点で認識していたことになります。

そうだとしたら、その時点で大会側はどういう対応をとったのか。

もし早い段階で、二次事故が起こらない範囲で近くの関係者が捜索に向かっていれば、発見できていたかもしれません。

仮に、本人からの連絡があるまで何も対応していなかったとしたら、何のための通過チェックなのか?

いずれにしても、トレランを運営する側としては、危機管理対策を見直すきっかけにしなければいけないと思いました。




コーステープはもっとあった方が良いのでは?

この点については、ぼくは他のトレランのレースをそこまで知らないので、あくまでも山登りの経験をもとに感じたことになります。

以下は、大会公式サイトからコースに関する記載を抜粋しています。

コースには参加選手の皆様が迷わないように、案内サイン(矢印)、コーステープ、等を設置しておりますが、分岐地点が多数ございますので、地図での確認をお勧め致します。

※地図とコンパスは必携装備

まず、この説明からして、それなりにルートファインディングが易しくないことが伺えます。

コース案内サイン:各分岐地点 矢印で表示
コーステープ:不明瞭で必要な箇所

テープは一定区間ではなく、不明瞭で必要な箇所だけにしか設置していないとのこと。

コース案内版、コーステープなどが1km以上走っても確認できない場合は、コース案内版またはコーステープまで戻りコースの確認をしてください。

逆にいうと、1km以内であれば、案内板やテープがなくても、コースは間違っていない可能性があり、選手は判断ができないということになります。

正直、結構シビアだなーと思いました。

しかし、トレランはルートファイディングなども醍醐味だという考え方があるとしたら、ぼくはそれに賛同します。

その代わり、そこをシビアにするなら、参加条件(資格)を厳しくするなどしないと、事故のリスクが高まるのは当然です。

それにも関わらず、大会概要を見る限りでは、参加資格は「中学生以上」ということ以外は定めがないようですし、明確な「装備チェック」もないとのこと。

もし、無知で山に慣れてもいないトレラン未経験者が、この65kmのシビアなレースに出場できるのだとしたら、随分とオープンすぎませんか。

それに、必携装備に地図とコンパスっていうのにも違和感を覚えます。その辺のランナーはおろか、最近は山登りする人でさえ、「地図読み」がまともにできる人はほとんどいません。

それならば、スマホに「YAMAP」や「ジオグラフィカ」などの、GPSアプリインストールを必須または推奨にした方がよっぽど安全だと思います。




まとめ:この事故がきっかけになるように

こういう事故が起こってしまったときに、

やっぱりトレランって危ないよね〜

自分たちも気をつけないとね〜

などと言っても、なんの解決にもなりません。

大会を運営する側も、参加する選手も、今回のような事故が起きてしまったときに、「何が事故の原因だったのか?」「どうしたら防ぐことができたのか?」そういったことをきちんと考えなければ、きっと同じような事故が怒ってします。

だからぼくは、このレースのこと、主催者のことも大して知らないくせに、ネット上で知り得た情報だけ頼りにして、思いつくままにこの記事を書かせてもらいました。

事故にあった男性や大会関係者を批判したつもりはありませんが、もし気分を害した方がいらっしゃったらごめんなさい。

トレランに関わる全ての方が、今回の事故をきっかけにより安全に競技が行われるように努力されることを願います。